「リスキリングしなきゃ」と思いながら、何も始められていない…そんな状態が続いていませんか。
私は看護師から未経験でライターに転身し、現在は医療ライティングや薬膳茶づくりの仕事をしています。ただ、はじめからやりたいことがあったわけではありません。看護師として働きながら「変わりたいのに動けない」日々が何年も続いていました。もがけばもがくほど、何を学べばいいのかわからなくなっていく。そのうちに、「私には何もできない」そんなふうに思ってしまう…。私自身、その経験をしてきた一人です。
これらの経験から分かったことは、動けなかった理由は、意志の弱さでも時間のなさでもなかったということ。この記事では、「何を学べばいいかわからない」と感じる人に共通している、ある心理の構造について考えます。
「何を学べばいいかわからない」の正体

「何を学べばいいかわからない」と感じたとき、多くの人は情報を集めます。けれど、調べるほど迷ってしまうことはないでしょうか。
それは情報不足ではなく、選択肢が多すぎることで「選べない状態」になっているのかもしれません。
調べれば調べるほど迷子になる理由
選択肢が増えると、人は選びにくくなります。これは、アメリカの心理学者バリー・シュワルツが提唱した「選択のパラドックス」として知られる、認知バイアスのひとつです。
リスキリングの世界では、Webデザインやライティング、マーケティング、動画編集など、選択肢は無数にあります。結果として、何が自分に合っているのかわからなくなり、選ぶこと自体をやめてしまう。「もう少し調べてから決めよう」という判断は、一見冷静に見えて、実は止まり続けるための理由になっていることがあるのです。
当時の私も、いつの間にか調べることが目的にすり替わり、まさに“キャリア迷子”の状態でした。
「自分に合ったもの」を探しているうちに止まってしまう
動けない人の多くは「完璧な答えを見つけてから動こう」としています。自分に向いているスキルを見極めてから、需要を確認してから、失敗しない選択をしてから…。ですが、その「正解」は調べるだけでは見つかりません。
私がライティングと出会ったのも、適職を調べた結果、自分に向いていそうだからと選択したのではなく、キャリアスクールで何気なく受講したことがきっかけでした。このように、やってみたからこそ見える選択肢があり、完璧な答えを探し続けることが、かえって動けない理由になっているということもあるのです。
「選べない状態」はどうして起こるのか

動けない自分を「意志が弱いから」「時間がないから」と思っている人は多いと思います。ですが実際は、構造そのものに理由があります。
ライフイベントの狭間で優先順位が崩れる
結婚や出産、育児、介護など、女性のキャリアはライフイベントの影響を受けやすいものです。そのたびに自分のことを後回しにしているうちに「自分のために選ぶ」という感覚そのものが薄れやすくなってしまいます。
私自身、子育てをしながら夜勤をこなしていた頃は「今は時期じゃない」と何度も自分に言い聞かせていました。そのうち、何を学びたいかより先に「そもそも学んでいいのだろうか」と考えるようになっていたのです。
「今の自分」を基準にすると選択肢が狭くなる
「私には何ができるか」という問いから考えると、今持っている経験の延長でしか選択肢を見られなくなります。私自身も「看護に関係することしかできない」と思っていました。ですが、実際には看護師として培った経験を活かしながらも、まったく別の働き方を選ぶことができたのです。
リスキリングは「今の自分」ではなく、「在りたい自分の姿」から考えるもの。起点が変わるだけで、見える選択肢も大きく変わります。
「何を学ぶか」の前に考えたいこと
「何を学べばいいかわからない」という言葉の裏には、別の問いが隠れていることがあります。「需要があるスキルは何か」「稼げる職種はどれか」から考え始める人も多いでしょう。ですが、本来その前にあるのは「どう働きたいか」「どう生きたいか」という問いではないでしょうか。
もちろん、将来を見据えて学ぶことは大切です。けれど、外側の基準だけで答えを探しても、それが自分に合うとは限りません。選べない状態は失敗でも停滞でもなく、自分が何を大切にしたいのか、まだ言葉になっていないだけかもしれないのです。
だからこそ、焦って答えを出す必要はありません。「何を学ぶか」の前に、「どんな人生を送りたいのか」を考えてみる。その問いこそが、スキル選びの本当の入口になるのだと思います。
「選べない状態」から抜け出すための小さな入口
ここまで読んで「じゃあどうすればいいの」と思った人もいるかもしれません。ここでは、何かひとつ大きく変わる解決策ではなく、はじめの一歩を背中押しするような入口の話をします。
完璧な答えを探すのをやめる
「正解を見つけてから動く」から「動きながら正解を見つける」へ。この発想の転換が、最初の一歩を軽くします。
私がライティングを学び始めたのも「これが正解だ」という確信があったからではありません。なんとなく動画講座を受けてみた、ただそれだけでした。たとえば、気になるスキルの無料体験を試してみる、1冊だけ関連する本を読んでみる。そのくらいの小さな行動で十分です。
完璧な答えを探すのではなく、動いてみることで、初めて見えてくるものを大切にしてみましょう。
「興味がある」より「気になる」を手がかりに
スキルを選ぶとき、需要や将来性から考えようとする人は多いでしょう。ですが、外側の基準だけで選んだものは、続けにくい側面があります。
もう一つの基準として持っておいてほしいのは、「なぜか気になってしまう」という感覚です。たとえば、誰かの文章を読んで、書き方が気になった。デザインされたものを見ると、どうやって作ったのか調べてしまう。このような自分の反応は、実は興味の方向を示していることもあるのです。
もし、「選べない状態」に苦しんでいるのなら、外側の基準よりも先に、自分の反応を手がかりにしてみてください。
「選べない自分」を責めなくていい
「何を学べばいいか」が決まらないと動けない。そう思ってしまうのは、とても自然なことです。けれど、実際には何を学ぶか決めてから動く人よりも、動きながら自分に合うものを見つけていく人のほうが多いのかもしれません。
私たちはつい「次こそ失敗したくない」と思うあまり、最初の選択に正解を求めてしまいがちです。ですが、本来キャリアも学びも、一度決めたら終わりではありません。やってみて違ったら方向を変えてもいい。立ち止まって考え直してもいい。選び直すことは失敗ではなく、その時々の自分に合わせて人生を更新していくことなのだと思います。
もし今「何を学べばいいかわからない」と感じているなら、まずはその自分を責めないでください。その感覚は、新しい一歩を考えている人なら誰もが通る場所だから。そして少しだけ、自分に問いかけてみてほしいのです。
「私は、どんなことを大切に思っているだろう?」
答えはすぐに出なくても構いません。大切なのは、正解を見つけることではなく、自分の声に耳を傾けること。リスキリングは、新しいスキルを身につけることだけではなく、自分の可能性をもう一度信じてみることから始まるのかもしれません。

■この記事を書いた人
隈﨑 愛樹(くまさき あいき)
看護専門学校卒業後、看護師として医療の現場に従事。やりがいを感じながらも、「このままでいいのか」という違和感や、産後の働き方への制約をきっかけにキャリアを見つめ直す。その後、看護師の経験を活かし、医療ライターとしての活動を開始。これまでの臨床経験をもとに、専門的な医療情報を一般の読者にわかりやすく届ける記事制作に携わる。
また、オリジナル薬膳茶クラフトワークショップや、やさしい哲学対話の場『ことばの交差点』を主宰し、日常の中で自分と向き合う時間や、言葉を通して思考をひらく場づくりにも取り組んでいる。

