今回お話を伺ったのは、横越温子さん。普段はアパレル関連のお仕事をされながら、この夏ミュージカルの舞台に立つ温子さんは、子どもの頃から舞台に憧れ、地方から上京して役者の道へ。その後、一度完全に芝居を離れ、出産を経て、長いブランクの末に再び舞台へ戻ってきました。
インタビューでは「やりたいことがあるのに自信がない」「一度諦めたことにまた向き合っていいのかわからない」——そんな気持ちを抱えている人に届く、たくさんのお話を伺うことができました。
舞台への憧れ、そして上京
——温子さんは子どもの頃から、舞台やお芝居に興味があったんですか?
そうですね、小さい頃はただの憧れで「芸能人になりたい」と思っていただけなのかもしれないですが、「あっちに行きたい」って気持ちがあって。うまく言葉にできないんですけど、演じている人を見ると、自分もそこに立ちたいという感覚がずっとあったんです。
子どものころは、新聞の「劇団員募集」といった広告を目にするたび親に「行きたい」とせがんでいたのですが、「ダメ!」と言われて……(笑)大学に入ったら好きなことをして良いよ、と言われていたので、進学後はミュージカルサークルに入りました。
初めて舞台に立ったときに、「これだ」と思いました。歌って踊って演じる、その時間が純粋に好きで。卒業後は東京に出るしかないと思っていました。
——地方からの上京は、周囲の反対もあったとか。
はい、家族には反対されましたし、「東京に行って役者になる」なんて言っても、現実的じゃないと思われていたと思います。でも、意志はかなりはっきりしていたので、押し切って上京しました。決めたらそのまま突き進む性格なので(笑)
上京後は役者の養成所に入って、小さな事務所にも所属して、芝居の勉強と実践を積みました。大学卒業後は市役所に就職したのですが、それも芝居と両立しやすいかなと思ったから。ただ、仕事との両立はやはりなかなか難しく、結局退職しました。芝居一本に絞ろうと思ったんです。
「やらなきゃ」に押しつぶされて
——その頃が、一番「役者として頑張っていた」時期ですよね。
そうなんです。でも、今振り返ると、当時の原動力って、ほぼ承認欲求だったと思うんですよ。人に認めてもらいたい、すごいと思われたい——そういう気持ちが中心にあった。
だから周りと比べてばかりで。上手な人を見るたびに焦って、「やらなきゃ」「もっとうまくならなきゃ」って自分を追い立てていました。やりたいことをしているはずなのに、楽しいと全然感じられなくて。稽古のたびに自分で自分を責めている……そんな苦しい感覚がありました。
——「やりたい」気持ちはあるのに楽しめない、という状態ですよね。
まさにそれで、それがまた自分を責める材料になるんですよね。「私は好きなことをやっているのに、なんで楽しめないんだろう」って。自己否定と焦りがずっと続いて、ある時点で「もう続けられないと感じて」芝居から完全に離れることにしました。
2020年、小さなワークショップが変えてくれた
——離れていた時期は「お芝居をやりたいな」という気持ちはなかったのですか?
ありました!正直、ずっと「やりたい」という気持ちはあったと思います。身近な人が、お芝居で活躍しているのを見ると、誰にも言えない嫉妬心のようなものも感じていました。でも失敗するのが怖くて……「お芝居をやりたい」という気持ちが自分の中で大切だからこそ、内に閉じ込めて、蓋をして、傷つかないようにしていたのだと思います。
——それが2020年のワークショップへの参加で変わっていく。
そうです。単発のワークショップがあって、参加してみようかなと思ったんですが、行く前は相当迷いました。本当に怖かったです。久しぶりすぎて、自分がどう見られるか、うまくできるかどうか、そういうことばかり考えていました。
——実際に参加してみて、どうでしたか?
純粋に、すごく楽しかったです!若い時に感じた「苦しさ」とは全く違いました。以前は人に認めてもらうための芝居だったけど、このときは演じる喜びそのものを感じていて。その違いが、すごく大きかったと思います。「ああ、やっぱり自分はこれが好きだ」って、はっきりとわかりました。
出産、そして「芝居は終わった」と感じた日
——その後、出産も経験されていますよね。
はい。ワークショップでの経験はとても大きかったのですが、子どもが生まれたとき、「芝居は自分の人生からなくなった」のだと感じました。「私はもうお芝居することはないんだな」と。母親になったんだから、自分のやりたいことを優先してはいけない——そういう意識が自然に出てきて、自分でも気づかないうちにそれを受け入れていたのかもしれません。
——未練はありましたか?
なかったわけではないと思うのですが、そのときは自分の奥底に閉じ込めていたのかもしれません。誰かが舞台に立っているのを見ても、以前は感じていた嫉妬や「自分もやりたい」という感情が生まれてこなかったんです。
それでもしばらくすると、やっぱり奥底にある「やりたい」という気持ちが出てきたんです、しつこいくらいですね(笑)。たまたま、茅ヶ崎・湘南エリアで平日に大人も参加できるミュージカルレッスンがあることを知りました。「大人になっても、ミュージカルを、お芝居を、やっていいんだ!」そう思えて、体験レッスンに行ってみたんです。そこで感じた楽しさが確信になって、オーディションを受けることにしました。
——オーディションは、怖くなかったですか?
怖かったですよ(笑)。怖くて、実は自分から「オーディション受けたい」とは言えなかったんです。でもレッスンを見ていた主宰の方が「受けてみたら」と。オーディションは台本の一部を演じて、歌って、ダンスもある審査でした。子どもたちが中心の舞台に大人キャストとして加わるオーディションだったんですが、受かったときは素直にうれしかったです。でも、「やったー!」みたいな感情ではなく「……よし!」という気持ちに近かった。この役に真摯に向き合いたい、自分や周りの人に対して責任を持って演じたい、そんな想いがこみ上げたんです。
子どもたちの純粋さが映し出すもの
——今、キャストの子どもたちと一緒に稽古をされているわけですね。どんなことを感じていますか?
子どもたちが稽古の中でぶつかっていることが、自分自身の課題と全部重なるんですよ。人前で失敗することへの怖さ、人の顔色をうかがってしまうこと、他人と比べて落ち込むこと、正解を外に求めてしまうこと——全部、私にも心当たりがある。
——子どもと大人で、同じ課題を抱えているんですね。
そうなんです。私自身も、失敗しないようしないように、傷つかないように、防御線を張って大人になった。だからこそ、子どもたちの純粋さからすごく学ばせてもらっています。子どもを通して、自分もイチからやり直しているような感覚があります。
原動力は「外」から「内」へ
——以前と今とで、芝居への向き合い方がかなり変わったように聞こえます。
全然違いますね。昔は人に認めてもらうためにやっていたから、矢印が外を向いていた。だから人と比べたり、評価が気になったりして苦しかった。どんどん疲弊していく感覚でした。でも今は、「自分が自分を生きるためにやっている」という感覚があって矢印が内向きになったというか。面倒な準備も、稽古で疲れることも、自分のためだと思えるから続けられる。自分のためだから、楽しいんです。
——「自分が自分を生きるために」というのは、どういうことですか?
役を生きることが、自分を生きることと直結している感じです。「今を生きる」という言葉があると思うのですが、お芝居もまさにそうで。その瞬間、瞬間を、どれだけ誠実に生きられるか。そうでないと、すべてが嘘になってしまうから。
私はこれまでずっと、自分の気持ちに蓋をして誤魔化して生きてきてしまったからこそ、本当は何を感じているのかも分からなくなってしまっていました。それらを今、役を演じることを通して、「本当の自分を生きること」を取り戻しているのかもしれません。
「やらない自分」より「やった自分」が好きかどうか
——最後に、「やりたいことがあるのに自信がない」「一度諦めたことにまた向き合っていいのか」と感じている人にメッセージをお願いします。
まず、自分の中の小さなサインを見逃さないことだと思います。直感的に「気になる」と感じたことって、理由がなくてもそこに意味があったりすると思うんです。そのサインを信じてみることが、最初の一歩になると思っています。
——失敗への怖さはどう向き合えばいいでしょう?
私は長い間、失敗が怖くてやりたいことに蓋をしていました。でも結局、やらなかったことへの後悔の方が、ずっと重くなるんですよね。だから、「やらない自分」と「やった自分」、どちらが好きかで選んでみるといいと思います。
失敗してもいい。それでもやりたいなら、やってみる。そういう勢いや開き直りも、大事なんじゃないかなと思っています。

■profile:横越 温子さん
1982年生まれ 滋賀県出身
大学卒業後、地元の市役所に就職するも幼いころからの夢「役者」になるべく上京。一度は芝居から離れるも、改めて自分の声と向き合い、芝居を再開。アパレル関連の仕事をしながら、稽古を重ねこの夏ミュージカルに出演。
横越温子さん出演情報
Earth Rhythm Connection主催ミュージカル「エデンとにじの花」
開催日時:2026年8月29日(土)
にじチーム 13:00開演
花チーム 17:00開演(温子さん出演回)
各回:
1部ミュージカル「エデンとにじの花」
2部Earth Rhythm Live vol.3
※休憩を挟んで60分ずつ
場所:湘南台市民シアターホール
詳細:https://earth-r-c.hp.peraichi.com/

