看護師、和漢薬膳師、ライター、そして哲学対話……。
一見まったく異なる分野で活動している隈﨑愛樹さんですが、そのすべてには共通する軸があるといいます。それは、本人がまだ言葉にできていない声やサインを「翻訳・代弁・言語化」すること。
今回は、未病ケアや薬膳茶に関心を持った背景から、哲学対話サロン「言葉の交差点」に込めた思い、そして人と関わるときに大切にしている姿勢まで、じっくりとお話を伺いました。

■今回お話を伺った方:隈﨑 愛樹さん
看護師/和漢薬膳師/ライター/哲学対話『ことばの交差点』主宰
看護専門学校卒業後、看護師として医療の現場に従事。やりがいを感じながらも、「このままでいいのか」という違和感や、産後の働き方への制約をきっかけにキャリアを見つめ直す。その後、看護師の経験を活かし、医療ライターとしての活動を開始。これまでの臨床経験をもとに、専門的な医療情報を一般の読者にわかりやすく届ける記事制作に携わる。 また、オリジナル薬膳茶クラフトワークショップや、やさしい哲学対話の場『ことばの交差点』を主宰し、日常の中で自分と向き合う時間や、言葉を通して思考をひらく場づくりにも取り組んでいる。
4つの活動をつなぐ「ひとつの軸」
看護、薬膳茶、ライティング、哲学対話……幅広く活動されていますが、それぞれに共通するものはあるのでしょうか。
私のなかでは一本の線でつながっているんです。
看護では、身体に直接関わらせていただき、ケアをする。和漢薬膳師として主宰する「薬膳茶ワークショップ」では、カウンセリングを通して心や身体のサインを一緒に紐解いて、ケアのひとつとして茶葉のブレンドを提案します。ライティングでは、誰かの思いを文章にして届けますし、哲学対話では、言葉になる前の意識や価値観を、参加者のみなさんと一緒に言葉にして、交差させる場をつくっているんです。
共通しているのは、その人がまだ言葉にできていない声やサインを、翻訳したり、代弁したり、「言語化する」ことだと思っています。
未病ケアと薬膳茶に関心を持ったきっかけ
薬膳茶や未病ケアに関心を持たれた背景には、どんな経験があったのでしょうか。
きっかけのひとつは、結婚後に妊娠に関する治療を受けた経験です。ホルモン剤の副作用に耐えながら、一方で夜勤などの不規則な勤務で、自律神経が乱れやすい働き方をしていました。
妊娠する力を薬で補いながら、健康的とは言えないような働き方をしている。そこの違和感に気づいたとき、土台が養われていなければ根本的な解決にはならないんじゃないかと、強く感じたんです。
また、当時は心臓血管外科や循環器内科の病棟で働いていたんですが、心不全のように生活習慣上の工夫がとても大切な病気で、悪化と再入院を繰り返す方々を目の当たりにしました。
そこから、さまざまな背景から自身の健康を省みる「余白」がなく、生活習慣という土台を建て直すことにまで意識を向けられない現状があることを知ったんです。
確かに、西洋医学の対症療法には大きな強みがあります。一方で、東洋医学には、発症する前の土台をケアしていくという強みがあるな、ということに気づいたんです。
そこで、その二つを掛け合わせたいと考えるようになりました。
薬膳茶カウンセリングで大切にしていること
薬膳茶ワークショップのカウンセリングは、どのようなスタンスで行われているのですか。
大切にしているのは、私の持っている知識を当てはめたり、一方的にお伝えしたりするのではなくて、言葉にならない心身のサインを、言語化するお手伝いをしているという意識です。
言語化・翻訳といった言葉を使っていますが、私が一方的にその方のお話を判断したり、言い換えてしまったりするような「翻訳」ではないんです。やりとりを重ねるなかで、その方が表現したいのに言葉にできないでいる物を、守りたいという思いがあります。
今は書籍や動画、AIなどでも、知識やセルフチェックは得られる時代ですよね。
本当にそうですね。知識を得ることも、セルフチェックをすることも、いろいろな方法でできます。だからこそ薬膳茶のカウンセリングでは、そうした方法だけでは得にくい「対話」を届けたいと思っているんです。
たとえば、その方がおっしゃっている内容と、表情や雰囲気とのずれ。そういった、人と話す中でしか感じ取れない非言語的な部分も大切にしていきたいです。
心の声や身体の声、思考、感情、行動……それらが一致していない状態は、不調や未病を加速させてしまうことがあると捉えています。
忙しい毎日のなかで、自分の心身のズレや変化に気づくには、どうしたらいいのでしょうか。
まず一度、自分に意識を向けて、身体を「スキャン」するように俯瞰してみることが第一歩だと思います。手や奥歯に力が入っていないか、目や口が乾いていないか、呼吸が浅くなっていないか、肩が凝っていないか……そういったことを観察してみるんです。
慣れないうちは難しいかもしれません。なので、昼休みのあとや午後の仕事を始める前など、時間を決めて、短い時間でも確認することをルーティンにするのがおすすめです。
東洋医学的には、どこに力みがあるのか、力みが出るのが昼なのか夜なのか、どの時間帯に出るのかも見ていきます。でも、こうした気づき自体は、専門的な知識がなくても誰でもできることなんですよ。
サインに気づいたとき、どう受け止めるのがよいでしょうか。
不調のサインを「悪いもの」と決めつけないことが大切ですね。身体がサインを出せる状態にあること自体が、とても尊いことだと思うんです。カウンセリングの際もそうやってお伝えすると、相談してくださる方が不調に対して心を開いてくださったり、自信につながったりすることがあります。
「私の身体、サイン出せてるなんてすごい!」と捉えてほしいですね(笑)
哲学対話サロン「言葉の交差点」に込めた思い
哲学対話サロン「言葉の交差点」は、どのような思いで始められたのでしょうか。
価値観を固定して、正義感や対立の武器にしてしまうのではなくて、きちんと扱える場をつくりたいという思いから始めました。
ひとつの問いについて、それぞれが言葉にする。そして、自分とは違う価値観と出会うことで、自分の価値観を深めたり見直したりできる。そうした価値観同士の交差と化学反応が、名前にも込められています。
ディベートとは異なり、勝ち負けや結論を目指すのではありません。ディベートだと、答えを出さなくてはいけませんよね。でも、人生って答えのない日々で、だからこそもがくんだと思うんです。
AIが出てきて、すぐに答えが見つかる時代になって、答えが出るまで待てない人も増えている気がします。だからこそ、わからないまま問いを持ち続けることで、人生の捉え方や見方が変わると思っているんです。
誰もが安心して価値観を共有できる場にするため、工夫されていることはありますか。
参加者が嫌な思いをしない、させないことを、グランドルールにしています。心理的な安全性は、いちばん大切にしている部分です。ファシリテーションでは、発言したい方の思いをきちんと受け止めながら、まだ発言していない方への配慮も欠かさないようにしています。話さない時間を大事にしている参加者の方もいらっしゃいますから。
哲学対話では、結論や答えを出しません。結果として、意見が一致しないことを認められるようになったり、合わないなと感じる相手の考えを、観察したり理解しようとしたり……生きることに対するあり方に、作用していくと思っています。
そして、対話やコミュニケーションにはいろいろな種類があることを知ってほしいです。不平不満を述べるだけで終わらせるより、観察してみるほうがいいですよ、ということもお伝えしたいですね。
薬膳茶と哲学対話は一見異なる存在に思えますが、どんなつながりがありますか。
実は、とても近いものだと思っています。薬膳茶は、心身のサインを紐解いて、その方のニーズに気づくための自己対話の場。哲学対話も、問いを深めていくなかで、自分の信念や価値観を見つけていく自己対話の場なんです。
表現や提供の仕方は違っても、根っこは同じなのかもしれません。どちらも、自己対話を通じて、自分の内側にあるものを明らかにしていく点で共通していると思います。
自分をケアする日々の習慣
隈﨑さんご自身は、どのように心と身体をケアされていますか。
心のケアとしては、日々短く書けるノートを使って、ジャーナリングをしています。それから、読書中に気になった言葉を拾って、「なぜ自分はこの言葉が気になるんだろう」と問い直すこともあります。そうすると、自分の感情や考えを少し俯瞰して見られるんです。
最近は「物語化批判」に関心があります。あらゆるものにドラマティックな物語が求められることへの違和感や、「何者かにならなくては」という圧力について考えているんです。
「批判」という言葉には、強いイメージもありますね。
私にとっての「批判」は、誹謗中傷ではなくて、物事や言動が妥当かどうかを、論理的な根拠に基づいて検討したり評価したりすることなんです。それは創造的な思考にもつながると考えています。
「寄り添う」から始まり「一緒に向かっていく」へ
最後に、人と関わるうえで大切にしている姿勢について教えてください。
薬膳茶の屋号「with」には、「寄り添う」「一緒に向かっていく」という思いを込めています。
その人の歩くスピードって、その人だけのものですよね。それを尊重してほしいし、尊重したい。どちらも前に進んでいるけれど、横から一緒にサポートしたい。そういう思いが、「with」に込められています。
これは、私自身が人からそんなふうに関わってほしいと感じていることが背景にあるんです。
相手を決めつけたり、前から引っ張ったり、後ろから押したりするのではなくて、その方の歩く速度を尊重して、隣で同じ歩幅で進んでいく。そんな関係性を大切にしたいですし、私にもそうしてほしい(笑)。
薬膳茶のカウンセリングや哲学対話での場づくりも含めて、相手を尊重する関わり方すべての基盤になっています。
歩くスピードは、人それぞれです。まわりと比べず、自分のペースを自分が尊重してあげる。そして、言葉になる前の「自分の心と身体の声」に、ときどき耳を傾けてもらえたらうれしいです。

